「トランスジェンダーについて知りたい」
そんなあなたに向けた最初の1冊として、本書は書かれました。
しかし、トランスジェンダーについて知りたいあなたも、きっとこれまで困ってきたのではないでしょうか。なぜなら、日本語で読めるトランスジェンダーについての本はとても少なく、またその内容も限られていたからです。簡単にですが、これまでの関連書籍を振り返ってみましょう。
例えば、「性同一性障害」という今では使われなくなった名称を冠した本なら、いくつも出版されています。とはいえ、これは医学的な病名であり、「トランスジェンダー」が意味する人々よりも対象範囲は限られています。なお、「性同一性障害(GID:Gender Identity Disorder)」と「トランスジェンダー」という言葉の意味の違いについて知りたい方は、この本の第1章と第4章をご参照ください。
ほかにも「LGBT(LGBTQ+など)」についての本はたくさん出ており、そこから「エ=トランスジェンダー」について初めて知ったという方もいるかもしれません。ただし、性的マイノリティとして振りにされたなかで、トランスジェンダーにページが割かれることは少なく、どうしても「おまけ」のような扱いになりがちです。
もちろん、トランスジェンダーの当事者が書いた自伝やエッセイも、1990年代あるいはそれ以前からすでにいくつも書かれていました。それらは、情報源が極めて少なく、各自が孤独な状況を強いられていたなかで紡がれてきた、かけがえのない軌跡です。しかし、トランスジェンダーの人たちがどのように生きているのか、どんな法律がトランスジエンダーの生活に影響を与えているのかなど、客観的な視点から日本のトランスジェンダーの状況を論じた本は、これまでありませんでした。
だからこそ、本書が書かれる必要がありました。トランスジェンダーとはどのような人たちなのか。性別を「変える」とは、いったいどのようなことなのか。トランスジェンダーの人たちはどのような差別に苦しんでいるのか。日本で戸籍の性別を変えるためにはどんなルールがあるのか。フェミニズムとトランスジェンダーはどのように関わっているのか。こういった基本的な知識を、この1冊にまとめました。
もしあなたが、トランスジェンダーについて知りたい、トランスジェンダーの人たちの力になりたいと考えているなら、この本に書かれているような知識を最低限身につけておいてほしいと願っています。
あるいは、自分自身がトランスジェンダーの当事者で、しかしながら周囲の人に自分のことを説明するのにはもう飽き飽きしてしまった、というあなた。大変お待たせしました。今度からはこの本を勧めてみてはいかがでしょう。タイトルはいたってシンプル、『トランスジェンダー入門』です。
この本を書いている私たち(周司あきら・高井ゆと里)は、これまでトランスジェンダーのことについて日本語で考えたり、文章を書いたり、あるいはトランスジェンダーについての本を翻訳したりしてきました。
そんな私たちもまた、この本が書かれることを待ち望んでいました。なぜなら、トランスジェンダーについて書いたり話したりしようとしても、日本の人たちにはまだまだ正確な情報が伝わっておらず、いつも「トランスジェンダーとは・・・・・・」といった初歩的な説明から繰り返さざるを得なかったからです。そうした状況がずっと続いているために、私たちも「本当にしたい話」をすることがこれまであまりできていませんでした。この本をようやくお届けすることができ、私たちも嬉しく思っています。
そして、本書を手に取ってくださった皆さん、ありがとうございます。トランスジェンダー入門の、扉を開きましょう。