皆さんは性別分けスペースと聞くと、どのような場所を思い浮かべますか?実のところ、私たちの生活は男女で分けられたスペースだらけで、かなり多くの機会において、性差に頼った空間で暮らしています。トイレ・更衣室・公衆浴場などが男女別のスペースとして想像されやすいですが、服売り場や美容院などのお店をはじめ、公共交通機関の座席で異性の横を避けるとか、学校の休み時間に何となく同性で集まりがちといった場面まで思い浮かべれば、無意識にせよ私たちが男女でスペース(場所)を区別しつつ生きていることに気づくでしょう。社会のあらゆる空間は、今のところ男・女二つの性別で分けられているのです。

こうした状況は、ノンバイナリーの人にとっては大変に生きづらいものです。とはいえノンバイナリーの人のなかにも、出生時に割り当てられた性別とは違った性別へ移行していく人はいます。移行してからも「女性」か「男性」というバイナリーな性別に擬態する人もいれば、「ノンバイナリー」としての自分の存在を確保していく人もいます。国や地域によっては、公的にノンバイナリーの存在が認められつつある場所もあります。

トランスの人たちが社会的に生きていく性別を変えるとき、つまり割り当てられ命令された性別として生きるのをやめようとするとき、トランスの人たちはそうして性別分けされた空間の使い方を変えることになります。それは同時に、他者との関係性や距離感の保ち方を変えることでもあります。これから説明する「社会的な性別移行」とは、そうした実践を指します。